
「電気保安点検」という言葉は、実は2つの違うものを指して使われています。どちらの話をしているかで、義務なのか任意なのか、誰がやるのかが変わります。
- 自家用電気工作物の保安管理業務:キュービクルなど高圧受電設備がある事業所の義務。電気事業法に基づく
- 一般用電気工作物の調査:一般家庭や小規模店舗が対象。電力会社(一般送配電事業者)に課された義務で、4年に1回程度
この記事では、両方を整理したうえで、それぞれの対象・内容・頻度・費用を解説します。
- 高圧受電の事業所は自家用電気工作物。保安規程の届出と電気主任技術者の選任が電気事業法上の義務
- 一般家庭は一般用電気工作物。電力会社側の調査義務として、おおむね4年に1回の調査がある
- 自家用の点検は月次点検(運転中)と年次点検(原則停電)に分かれる
- 電圧7,000V以下で受電する需要設備は、外部委託承認で主任技術者を選任しないことができる
- 点検は法令対応であると同時に、事業を止めないための備え
2つの「電気保安点検」
| 自家用電気工作物 | 一般用電気工作物 | |
|---|---|---|
| 対象 | 高圧(600V超)で受電する事業所。キュービクルを持つ施設 | 一般家庭、小規模な店舗・事務所(低圧受電) |
| 義務を負う者 | 設置者(事業者本人) | 電力会社(一般送配電事業者) |
| 主な内容 | 保安規程の届出、主任技術者の選任、点検の実施 | 電力会社またはその委託先による調査 |
| 頻度 | 月次点検・年次点検(保安規程による) | おおむね4年に1回 |
| 費用 | 設置者の負担 | 電気料金に含まれる(別途請求されない) |
ややこしいのは、家庭に来る調査も「電気の安全点検」と呼ばれることです。これは電力会社側の義務であって、費用を請求されることはありません。その場で高額な工事を持ちかけられたら、いったん保留にして確認してください。
自家用電気工作物とは
電気事業法では、電気工作物を「事業用電気工作物」と「一般用電気工作物」に分け、事業用のうち電気事業の用に供する以外のものを自家用電気工作物としています。
実務的には、次のような設備が該当します。
- 高圧(6,600V)で受電している事業所。キュービクルを設置している施設
- 契約電力が50kW以上の需要設備
- 工場、商業施設、事務所ビル、病院、学校、ホテル、大型店舗など
- 一定規模以上の発電設備(太陽光を含む)を設置している施設
コンビニや小規模な飲食店でも、契約電力によっては高圧受電になっていることがあります。テナントとして入居している場合は、ビル全体で受電しているのか、自社で受電設備を持っているのかで扱いが変わります。
設置者に課される3つの義務
| 条文 | 義務の内容 |
|---|---|
| 第39条 (維持) | 事業用電気工作物を主務省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない |
| 第42条 (保安規程) | 保安を確保するため保安規程を定め、使用の開始前に主務大臣へ届け出る。変更したときも遅滞なく届け出る。設置者およびその従業者は保安規程を守らなければならない |
| 第43条 (主任技術者) | 保安の監督をさせるため、主任技術者免状の交付を受けている者のうちから電気主任技術者を選任し、遅滞なく届け出る |
点検の頻度そのものは、この保安規程のなかで定めます。法律に「年◯回」と直接書かれているのではなく、自分たちで定めた保安規程を守る義務がある、という構造です。
また、第40条では、技術基準に適合していないと認められるときは、修理・改造・移転や使用の一時停止を命じられることがあると定められています。
点検の内容
月次点検(運転中に実施)
設備を止めずに行う点検です。
- キュービクル本体の外観確認(腐食、変形、施錠、換気口、小動物の侵入痕跡)
- 電圧・負荷電流の測定
- B種接地工事の接地線に流れる漏えい電流の測定
- 変圧器や接続部の温度確認
- 異音・異臭の確認
- 油入変圧器の油量・油漏れの確認
- 設備周囲の状況(保安距離、可燃物、雨水の侵入)
年次点検(原則停電して実施)
設備を止めて行う点検です。月次点検では確認できない項目を見ます。
- 絶縁抵抗の測定
- 接地抵抗の測定
- 保護継電器の動作試験(過電流継電器、地絡継電器など)
- 遮断器の開閉動作の確認
- 盤内の清掃
- 端子・接続部の増締め
- 絶縁油の試験(必要に応じて)
特に保護継電器の動作試験は年次点検でしか確認できません。事故時に電気を遮断する装置なので、これが動かなければ設備を守れず、しかも動かないことは事故が起きるまで分かりません。詳しくはキュービクル点検の記事で整理しています。
外部委託承認制度
電気主任技術者を自社で雇うのが難しい事業者のために、外部へ委託する制度があります。
電気事業法施行規則第52条第2項では、電圧7,000V以下で受電する需要設備について、保安管理業務の委託契約が要件に該当する者と締結され、経済産業大臣(産業保安監督部長)の承認を受けた場合、電気主任技術者を選任しないことができると定めています。
承認の主な要件(第53条第2項)
- 委託契約の相手方が要件(電気管理技術者または電気保安法人)に該当していること
- 委託契約は保安管理業務を委託することのみを内容とする契約であること
- 電気工作物の点検を、別に告示する頻度で行うことが契約に定められていること
- 非常時の連絡体制、設置者と受託者の相互の義務・責任が契約に定められていること
- 受託者の主たる連絡場所が、当該事業場に遅滞なく到達し得る場所にあること
年次点検は1年に1回以上が基本ですが、設備の条件を満たせば、停電による点検を3年に1回以上とすることも認められています。
一般家庭の電気調査(4年に1回)
一般家庭や低圧受電の小規模事業所では、電力会社(一般送配電事業者)またはその委託を受けた電気保安協会などが、おおむね4年に1回調査に訪れます。
主に見るのは次の点です。
- 屋内配線の絶縁状態
- 漏電の有無
- 分電盤やブレーカーの状態
- 接地(アース)の状況
- 引込線まわりの状況
この調査は電力会社側の義務なので、費用は請求されません。調査で不具合が見つかった場合は改修を勧められますが、その工事自体は自分で業者を選んで依頼します。
調査の間隔が4年ということは、その間に劣化が進んでも気づかれないということでもあります。分電盤の漏電遮断器のテストボタンを月1回押す、といった日常の確認は自分でやっておく価値があります。
費用の目安
| 内容 | 費用の目安 |
|---|---|
| 自家用電気工作物の保安管理業務委託(年間) | 10万〜30万円程度 |
| 年次点検(停電作業) | 委託契約に含まれる場合と別途の場合がある |
| 絶縁油の試験 | 別途 数万円 |
| 指摘事項の修繕工事 | 内容による |
| 一般家庭の電気調査 | 無料(電力会社の義務) |
保安管理業務の費用は、契約電力の規模、点検頻度、事業場の数で変わります。比較する際は、年次点検が含まれているか、指摘事項が出たときの対応がどうなるかを確認してください。
点検を怠るとどうなるか
法令上のリスク
保安規程で定めた点検を実施しなければ、電気事業法第42条第4項に反することになります。技術基準に適合していないと認められれば、修理や使用の一時停止を命じられることもあります(第40条)。
事業上のリスク
こちらのほうが現実的です。キュービクルが故障すれば施設全体が止まります。工場なら生産停止、店舗なら休業、ビルならテナント全体に影響。復旧までの時間も、原因によっては数日かかります。
高圧機器は受注生産のものが多く、故障してから発注すると納期が数か月かかることもあります。その間ずっと事業が止まる、という事態は避けたいところです。
波及事故のリスク
自社の設備の事故が原因で、周辺地域まで停電させてしまうことがあります。これを波及事故といいます。原因の多くは高圧ケーブルの絶縁劣化や、保護装置の不動作。いずれも点検で防げる可能性が高いものです。
保安点検の指摘事項が、何年も同じ内容で残っている事業所があります。「様子を見ましょう」で毎年送られてきて、そのまま。ある日止まる。こういうケースを何度か見てきました。
指摘が出たら、優先順位をつけて計画を立てるところまでやったほうがいいと思っています。全部を一度に直す必要はありません。ただ、いつ直すかは決めておく。
他社では断られたという物件のご相談もいただきます。原因が分かりにくい案件や、条件の厳しい現場ほど手間はかかりますが、最後まで責任を持って対応するようにしています。
点検のあとに、ひと手間を
電気保安点検は法令上の義務ですが、実際のところは事業を止めないための備えでもあります。月次で変化を追い、年次で試験と清掃をする。その積み重ねが、突然の停電を遠ざけてくれます。
点検の結果が活きてくるのは、指摘事項に手を打ったときです。報告書を受け取って保管しておくだけだと、設備の状態は変わらないままになってしまいます。
点検は保安法人、工事は電気工事会社と分かれていることが多いので、その間をつなぐところが実は大事な役割だと感じています。Frawでは、点検で出た指摘の内容を拝見したうえで、優先順位と概算をお伝えするようにしています。
Frawは仙台を拠点に、宮城県全域と東北近郊で法人・店舗の電気設備工事に対応しています。第一種電気工事士として低圧から高圧まで施工可能です。法人・店舗の電気設備工事について詳しく見る。
よくある質問
電気保安点検は誰が受けるものですか?
2つに分かれます。高圧(600V超)で受電する事業所は自家用電気工作物にあたり、設置者自身に保安の義務があります。一般家庭や低圧受電の小規模事業所は一般用電気工作物で、電力会社(一般送配電事業者)側の義務としておおむね4年に1回の調査が行われます。
家に来る電気の調査は有料ですか?
無料です。一般家庭の電気調査は電力会社(一般送配電事業者)の義務として行われるもので、費用を請求されることはありません。調査で不具合が見つかった場合は改修を勧められますが、その工事は自分で業者を選んで依頼します。その場で高額な工事を持ちかけられたら、いったん保留にして確認してください。
自家用電気工作物の設置者にはどんな義務がありますか?
電気事業法により3つの義務があります。第39条で技術基準に適合するよう維持すること、第42条で保安規程を定めて使用開始前に届け出ること(変更時も届出)、第43条で電気主任技術者を選任することです。点検の頻度や内容は保安規程で定め、設置者およびその従業者はこれを守らなければなりません。
保安点検を怠るとどうなりますか?
保安規程で定めた点検を実施しなければ電気事業法第42条第4項に反します。技術基準に適合していないと認められれば、修理や使用の一時停止を命じられることもあります(第40条)。事業上のリスクとしては、キュービクルの故障による施設全体の停止と、周辺地域まで停電させてしまう波及事故があります。
保安点検を頼んでいる会社に、工事もお願いできますか?
保安管理業務を委託する電気保安法人は点検と監督が本業で、工事は行わないことがほとんどです。そのため指摘事項が出たときは別途、電気工事会社に依頼することになります。点検する側と直す側が分かれているため、指摘の内容をどう工事側に伝えるかが実務上のポイントになります。
波及事故とは何ですか?
自社の受電設備の事故が原因で、周辺地域まで停電させてしまうことです。原因の多くは高圧ケーブルの絶縁劣化や保護装置の不動作で、いずれも点検で防げる可能性が高いものです。他社に迷惑をかけるだけでなく、復旧までの事業停止も長引きます。
まとめ
電気保安点検には2種類あります。高圧受電の事業所が自ら実施する自家用電気工作物の保安管理業務と、一般家庭を対象に電力会社側の義務として行われる4年に1回の調査です。
事業所の場合、電気事業法により技術基準への適合維持、保安規程の届出、電気主任技術者の選任が義務づけられています。7,000V以下で受電する需要設備なら、外部委託承認制度で主任技術者を選任しないことができます。
点検は月次と年次に分かれ、保護継電器の動作試験は年次点検でしか確認できません。そして点検の価値は、指摘事項に手を打ったときに初めて出ます。報告書に残った指摘が気になっている方は、内容を見せていただければ優先順位からご相談できます。
- 電気事業法(e-Gov法令検索)
- 電気事業法施行規則(e-Gov法令検索)
- 保安管理業務外部委託承認制度(経済産業省 関東東北産業保安監督部)
- 住宅分電盤に関するQ&A(Panasonic/日本電機工業会「住宅用分電盤用遮断器の更新推奨時期に関する調査報告書」平成8年3月)
掲載した費用は一般的な相場の目安です。実際の金額は建物の構造・配線ルート・作業条件によって変わります。正確な費用は現地調査に基づくお見積りをご確認ください。